景気が低迷すると「小さな贅沢」を選ぶ心理

不安な時代ほど「小さな贅沢」が選ばれる

大きな出費をためらうようなときでも、不思議と「ちょっとした贅沢」には手が伸びるものです。

景気が低迷して高額な買い物を控えるときでも、手が届く範囲の「ちょっとした贅沢」にはお金を使いたくなるという現象を「リップスティック効果」と言います。

2001年、エスティローダーの会長が「9.11同時多発テロの後、口紅の売上が急増した」と語ったことがきっかけでした。
2008年の金融危機のときも、同社の口紅は好調でした。

家具や家電のような大きな買い物は減っても、「外見を整えるアイテム」にはむしろ意欲的になる人が多かったそうです。
「高級ブランドの方が自分を高めてくれる」と感じて、価格が多少高くても購入する人が増えました。

インドネシアのエコノミストは、人気アーティストのコンサートチケットが即完売したり、新型スマートフォンが発売と同時に予約で埋まったりする現象も、同じ心理から生まれていると指摘しています。

この傾向はコロナ禍でも見られ、マスク生活でメイク用品が売れなくなった一方で、香水やフレグランスの売上は大きく伸びました。
イギリスでは、ロックダウン開始から6週間でスキンケア製品が183%、フェイスマスクやヘアケア用品が187%と急増しています。

「モノ」より「気持ち」を満たす選択

背景にあるのは、「景気の低迷で使えるお金が減って、大きな出費は避けたいけれど、でも自分を大切にしたい」という気持ちです。

高価なスマートフォンも「毎日使う自分への投資」として選ばれますし、ライブや推し活のように物質ではなく「感情の満足」に価値を見出す人も多くいます。

身近なところでは、高級フルーツを使ったパフェやスイーツもそうです。
小さな贅沢が、気持ちを立て直したり、やる気を取り戻すきっかけになってくれます。

こうした背景からも、リップスティック効果は単なる経済用語ではなく「不安な時代ほど、人は自分を支える小さな満足を求める」という、本能的な行動なのかもしれません。

「心の財布」が教えてくれるお金の使い方

この心理は、行動経済学で「メンタル・アカウンティング(心の会計)」と呼ばれる考え方でも説明できます。

私たちは、無意識のうちにお金の使い道をいくつかの「心の財布」に分けていると言われます。

たとえば、生活費や家・車のような大きな買い物の財布は景気が悪くなるときっちり締めるけれど、「気分転換」や「自分を励ますための出費」の財布は、意外とゆるいまま。

これは、大きな出費を抑えつつ、罪悪感なく自分を満たすために、私たちが無意識にとっている行動のひとつです。

我慢ばかりの時代に、小さなご褒美を

先が見えず、使えるお金が減ってくると、「無駄な買い物はしたくない」と考えるのは自然なこと。
でも、自分を満たすことまで我慢してしまうと、心が疲れてしまいます。

大きな買い物を控えても、無理のない範囲で「ちょっと気分が上がるもの」を手にすること。
それは前向きに日々を過ごすための大切な習慣です。

どんなに経済が不安定になっても、消費そのものが止まることはありません。
むしろ、そんな時代だからこそ「自分を高めてくれるもの」を選び取ろうとする傾向が強まります。

「数」が安心感になる時代

現代の買い物で大きな影響力を持つのが、レビューや人気ランキングです。

不安が強まると、人は「失敗したくない」という思いから、多くの人が選んでいるものに安心を感じます。
レビュー数や★評価が「みんなが買っている=安心」と感じさせるのは、考える手間を減らす「判断の近道」でもあります。

SNSで「人気No.1」や「口コミ多数」と紹介されると、「まずはこれなら失敗しなさそう」と感じて手に取る人が増えるのも自然な流れです。

ただし、レビューはPR案件やステマなどが混ざっているケースも少なくありません。
数の多さだけを基準にしてしまうと、本当に自分に合うものを見失ってしまうこともあります。

それでも「自分の選択」を大切にしたい

一方で、「みんなが選んでいるもの」ではなく、「自分が本当に好きなもの」を大切にする人も増えています。

不安な時代だからこそ、「上質なもの」を選ぶ。
評価ではなく、自分の感覚を信じる。
それは小さな贅沢であると同時に、「自分と向き合う時間」にもなります。

レビューや数はあくまで参考。最後に決めるのは、自分の心です。
選ぶという行為は、自分がどんなものを大切にしたいのかを見つめる時間でもあります。

おわりに

大きな買い物を我慢する時代でも、自分へのご褒美まで我慢する必要はありません。

それがパフェでも、ライブでも、コスメでも。
「自分を大切にする気持ち」が込められているなら、それはただの消費ではなく、自分を支える力です。

ただし、自分の生活が苦しくなるほど使い過ぎてしまっては本末転倒で、それはただの浪費です。
支払いに無理のない範囲で、自分の心が喜ぶ選択をしていくことが大切です。

ほんの小さな買い物でも、自分を大切にする選択であることに変わりはありません。

身に付けているだけで気分が上がるものや、ワンランクアップした自分になれるような、「自分らしさ」を高めてくれる買い物を楽しんでくださいね。