フランキンセンス精油の選び方と効果・効能

フランキンセンスは、アラビア半島やアフリカ北東部に自生するカンラン科の植物で、古代から神聖な香りとして珍重されてきました。

樹皮に傷をつけると、乳白色の樹脂が分泌され、それを蒸留して精油を抽出します。

スモーキーでスパイシーな香りは、心を落ち着かせ、浄化し、集中力を高める効果があります。

古代の宗教儀式や瞑想に欠かせない香りとして用いられてきたフランキンセンスは、現代でもアロマテラピーで広く利用され、古代から現代まで多くの人々に愛されてきた香りです。

女性の美をサポートし、日々のストレスを和らげるために、日常生活に取り入れる方が増えています。

大手通販サイトなどで「フランキンセンス精油」を検索すると、10mlで600円台のものから、8,000円台のものまで、価格に大きな幅があります。

この価格の違いは、何によるものなのでしょうか?

フランキンセンス精油は、産地や種類、製造方法によって品質や香りに大きな違いがあります。その違いを理解するために、まずはフランキンセンスの基本情報と歴史を見ていきましょう。

フランキンセンスの歴史

フランキンセンスの名前は、古いフランス語で「frank(純粋な、真の)」と「incense(焚香、香料)」 という言葉に由来します。

フランキンセンスには「ルバン」や「オリバナム」などの別名もあります。「ルバン」はアラビア語で「乳香」や「乳」を意味し、フランキンセンスの樹液が乳白色であることに由来しています。また、「オリバナム」という別名は、アラビア語の「ルバン」からラテン語に転じたとされています。

フランキンセンスは、古代メソポタミアやエジプトで神聖な香りとして、宗教儀式や治療に用いられていました。

エジプトでは、ミイラの防腐処理にも使用されていたと伝えられています。ツタンカーメン王の墓からは、フランキンセンスを含む香料の入った瓶が見つかっており、宗教儀式や治療の場面で用いられていたことがうかがえます。

また、エジプト人は乳香とシナモンを組み合わせ、痛みを和らげるためにも活用していたと言われています。

聖書にも登場する「東方の三賢人」(Three Wise Men)は、イエス・キリストの誕生を祝うために黄金・没薬(ミルラ)とともにフランキンセンスを捧げたとされています。

乳香は「神」、没薬は「救世主」、黄金は「現世の王」を表し、これがクリスマスプレゼントの起源になったとも言われています。

その後もフランキンセンスは、キリスト教やイスラム教の宗教儀式で使われ続け、現在でも教会や寺院の薫香として利用されています。

また、アーユルヴェーダや中医学にも取り入れられ、心身のバランスを整える香りとして広く親しまれています。

「東方の三賢人と乳香」

フランキンセンス精油について

精油名フランキンセンス
別名乳香、オリバナム、ルバン
原料植物名ニュウコウジュ
学名Boswellia carterii、Boswellia thurifera、Boswellia Sacra
科名カンラン科
主な産地ソマリア、イエメン、エチオピア、ケニア、オマーン
抽出方法水蒸気蒸留法
抽出部位樹脂
揮発度ベースノート
主な成分α-ピネン、α-ツエン、p-シメン、リモネン、サビネンなど
主な作用うっ滞除去、強壮、去痰、抗うつ、鎮静、抗炎症、抗菌、抗真菌、収斂、鎮痙、癒傷

フランキンセンスの主な効果・効能

1. リラックス効果

フランキンセンスには、心を落ち着かせる鎮静作用があり、深いリラックス感をもたらします。瞑想やヨガの際に使用すると、気持ちを整え、安らぎを感じやすくなります。

2. ストレス緩和

フランキンセンスの香りは、不安やストレスを和らげる効果があり、心のバランスを整えるサポートをします。特に、精神的に疲れたときや気分転換をしたいときに適しています。

3. アンチエイジングとスキンケア

フランキンセンスは肌の引き締めや再生を助け、ハリのある健やかな肌を保つのに役立ちます。また、乾燥や小じわのケアにも活用されることが多く、肌のターンオーバーをサポートする働きがあります。

4. 血行促進とむくみ改善

血流を促進し、体内の余分な水分や老廃物の排出を助けるため、むくみや冷え性の改善が期待できます。特に、立ち仕事やデスクワークが多い方におすすめです。

5. 呼吸をサポート

フランキンセンスの香りは、呼吸を深く穏やかにし、気道をクリアにする作用があります。風邪のひき始めや乾燥が気になる季節に、蒸気吸入やディフューザーで取り入れると呼吸が楽になることがあります。

6. 免疫力サポート

フランキンセンスには抗菌・抗炎症作用があり、健康維持や風邪予防のサポートにもなります。特に乾燥する冬場に取り入れることで、環境の変化に負けにくい体作りを助けてくれます。

7. 筋肉の緊張を和らげる

疲れやストレスによる筋肉のこわばりをほぐし、リラックスを促します。また、腹部の不調や胃の不快感をやわらげるため、マッサージオイルに混ぜて使用するのも効果的です。

8. 炎症を抑える

フランキンセンスには強力な抗炎症作用があり、関節の痛みや肌の炎症をやわらげるのに役立ちます。特に、筋肉疲労や運動後のケアにおすすめです。

9. 傷の回復を促進

傷口の回復をサポートし、肌の再生を助ける働きがあります。フランキンセンスの精油をキャリアオイルで希釈し、スキンケアに取り入れることで、健康的な肌を保つのに役立ちます。

10. 心のケア

フランキンセンスは、古くから精神的な癒しを目的として使用されてきました。

特に、過去の心の傷を癒し、内面の平穏をもたらすとされています。

精油の水蒸気蒸留や溶剤抽出では得られない成分があるため、より深い精神的な効果を求める場合は、フランキンセンスの樹脂を焚く方法もおすすめです。

燃やすことで得られる独特の香りや成分が、心を落ち着かせ、より深いリラックスや瞑想状態へと導きます。

フランキンセンス精油の種類

フランキンセンス精油を選ぶ際に、特に注目すべきポイントは 「学名」「原産国」 です。

原産国は、海外メーカーの精油では「Origin」や「Country of Origin」と表記され、その後に国名が記載されています。

一般的に「フランキンセンス精油」と呼ばれるものには、以下の3種類があります。それぞれの特徴をご説明します。

Boswellia carteriiボスウェリア・カルテリィ

原産国:ソマリア、エチオピア、ケニア

特徴:最も一般的な種類です。ウッディでスパイシーな香りに、ほんのり柑橘のような甘さと酸味が加わった、バルサム調の落ち着いた芳香が特徴です。

Boswellia thuriferaボスウェリア・トゥリフェラ

原産国:ソマリア、ケニア

特徴:スモーキーで深みのある香りの中に、少し甘さと温かみを感じられるのが特徴です。

Boswellia Sacraボスウェリア・サクラ

原産国:オマーン、イエメン

特徴:最高品質の乳香とされる高級種。sacraは「神聖な」という意味。カルテリィに似た芳香を持ちつつ、よりフルーティーで奥深く、芳醇な香りが楽しめます。香り立ちがよく、バランスの取れた上品な印象です。

また、これら3種に加えて、比較的安価なフランキンセンス精油に使われる種類もあります。

Boswellia serrata ボスウェリア・セラータ

原産国:インド、マレーシア、中国

特徴:中東やアフリカ産の乳香と区別するため、「インド乳香(インディアン・フランキンセンス)」とも呼ばれます。カルテリィに比べて軽やかで、すっきりとした香りが特徴です。

安価なフランキンセンス精油の中には、ボスウェリア・セラータを使用しているにもかかわらず、「インド乳香」と記載せずに、一般的なフランキンセンス精油として販売されているものもあります。

そのため、購入の際は、学名と原産国を確認することが重要です。

フランキンセンス精油の価格差の要因

フランキンセンス精油の価格差は、主に以下のような要因によるものと考えられます。

1. 使用する樹脂の種類

一般的にフランキンセンス精油として販売されるボスウェリア・カルテリィは、香りのバランスがよく高品質とされています。

しかし、市場にはより安価なボスウェリア・セラータが使用されたものもあり、これらはコストを抑えられることから、低価格で販売されることが多いです。

商品ページには「Boswellia carterii」と記載されていても、ラベルや成分分析表に「Boswellia serrata」と書かれているケースがあります。

販売者が十分に確認していない可能性もあるため、購入前にメーカーの情報をしっかりチェックしましょう。

ボスウェリア・カルテリィやボスウェリア・サクラを使用していても、他の製品と比べて極端に安価な場合は注意が必要です。

2. 蒸留方法

本来、精油は低温・低圧でじっくり蒸留することで、豊かな香り成分を抽出できます。

しかし、大量生産を目的とした製造では、高温・高圧で短時間に蒸留されることがあり、その結果、繊細な香りや有効成分が失われやすくなります。

また、高温・高圧で蒸留された精油は、深みのある香り成分がしっかりと抽出されず、本来の香りとは異なることもあります。

3. 精油の純度

一部の安価な精油には、エタノールや溶剤で希釈され、かさ増しされているものもあります。

エタノールや溶剤で希釈された精油は、フランキンセンスの香りが感じられるものの、非常に薄く、すぐに香りが飛んでしまう傾向があります。

また、安価で容易に入手しやすい成分(松脂から得られるα-ピネン、柑橘から得られるリモネン)を添加してかさ増しする偽和行為が行われることもあると言われています。

(精油の品質や純度に関する詳しい情報はこちらの記事をご覧ください。)

こうした製品は一見お得に思えますが、フランキンセンス本来の魅力が十分に引き出されず、期待できる効果・効能を得られない場合があります。

フランキンセンス精油を選ぶ際は、複数のブランドを比較して、学名と原産国は必ず確認し、極端に安すぎないものを選ぶことをおすすめします。

〈ご注意〉本記事は精油の一般的な特徴についてご紹介するものであり、医療や治療を目的としたものではありません。精油の使用は、体調や体質に合わせて適切に判断してください。妊娠中の方や持病をお持ちの方、小さなお子様への使用については、専門家にご相談のうえ、安全にご活用ください。本サイトでは、精油の使用に関する事故やトラブルについての責任は負いかねますので、あらかじめご了承ください。

参考文献:

  • ワンダー・セラー著 『アロマテラピーのための84の精油』 / フレグランスジャーナル社
  • 日本アロマセラピー学会編 『アロマセラピーのための精油ハンドブック』 / 丸善出版
  • 機関誌『AEAJ No.81』 / 公益社団法人 日本アロマ環境協会
  • 機関誌『AEAJ No.105』 / 公益社団法人 日本アロマ環境協会
  • 『aromatopia 175』 / フレグランスジャーナル社