精油(エッセンシャルオイル)の選び方

近年、香害やスメルハラスメントへの関心が高まり、合成香料の使用を避ける傾向が強まっています。これにより、天然香料を使用した製品の人気が高まり、アロマ市場は拡大を続けています。

新しい精油メーカーが増え、製品の選択肢も豊富になったため、どの精油を選べばよいか悩む方も多いのではないでしょうか?

そこで今回は、精油の選び方についてご紹介します。

精油とアロマオイルの違い

精油は、植物の花、葉、果皮、樹皮、根、種子、樹脂などから抽出した天然の素材で、有効成分を高濃度に含有した揮発性の芳香物質です。各植物によって特有の香りと機能を持ち、アロマテラピーの基本となるものです。ホホバオイルなどのキャリアオイルで希釈して、お肌に使用できます。

アロマオイルは、主に香りを楽しむために使用される製品で、精油に合成香料を混ぜたり、プロピレングリコールやエタノールなどで希釈したものを指す場合が多いです。これらの成分は、肌への使用には適していないことが多いため、希釈してもお肌に使用することは避けてください。

「アロマ(aroma)」は芳香や香りを意味し、アロマオイルという言葉は精油を含めた香料の総称のように使われることも多いですが、このサイトではわかりやすく説明するために「アロマオイル=合成香料を混ぜたり、エタノールなどで希釈したもの」としてご説明しています。

精油とアロマオイルを見分けるポイント

精油とアロマオイルを見分けるための基本的なポイントは以下の3つです。

  1. ボトルとラベルの表示
  2. 価格
  3. 希少性の高い精油の抽出方法

それぞれのポイントについて、以下で詳しく説明します。

1. ボトルとラベルの表示

精油は紫外線や熱により成分が変化するため、茶色、青色、緑色などの遮光性のガラス容器に入っています。

また、ラベルには「Pure Essential Oil」または「Essential Oil」、学名、抽出部位、抽出方法などの情報が記載されています。

公益財団法人 日本アロマ環境協会(AEAJ)では、消費者保護の観点から、ラベルや使用説明書の「表示基準」を定めています。

AEAJ表示基準適合認定精油として認められた精油には、ラベルや使用説明書に必ず精油製品情報(8項目)と、使用上の注意事項(4項目)が記されています。

【精油製品情報】

  1. ブランド名
  2. 品名
  3. 学名
  4. 抽出部分(部位)
  5. 抽出方法
  6. 生産国(生産地)または原産国(原産地)
  7. 内容量
  8. 発売元または輸入元

【使用上の注意事項】

  1. 原液を皮膚につけないでください。
  2. 絶対に飲用しないでください。
  3. お子様の手の届かないところに保管してください。
  4. 火気には十分ご注意ください。

引用:
(公社)日本アロマ環境協会「AEAJ表示基準適合精油認定制度」
🔗https://www.aromakankyo.or.jp/aeaj/activity/oil/

約10年前までは、これらの基準を確認すれば、ラベルを見ただけで精油とアロマオイルの違いが一目でわかりました。

しかし現在では、アロマオイルにも遮光性のガラス瓶が使われ、表示基準を満たして認定を受ける「精油に非常に近いアロマオイル」が増えているため、本物の精油を見極めることが難しくなっています。

AEAJのサイトにも記載されている通り、この「表示基準適合精油認定制度」は、精油そのものの「品質認定」ではなく、あくまでも「表示基準」の認定であることに注意が必要です。

2. 価格

複数の精油メーカーの価格を比較して、極端に価格が安い精油は、100%ピュアな精油ではない可能性が高くなります。

高品質な精油は、栽培方法に厳格な基準が設けられ、持続可能な農法や有機栽培が採用されることが多く、製造過程や原材料の調達に時間とコストがかかります。

例えば、ラベンダー精油の場合、フランスアルプスなどの高地では害虫が少なく、昆虫忌避作用のある成分をあまり作らなくなるため、とても甘い香りの精油が得られます。

しかし、高地での栽培は難しく、少量生産しかできないため、高地産のラベンダー精油は高価になります。

また、精油の価格はその希少性や抽出方法によっても大きく異なります。特に手間のかかる抽出方法を用いた精油や、ローズやジャスミン、ネロリなどの希少な植物から採れる精油は非常に高価になり、精油の種類によって価格に大きな差が出ますが、どの精油も同じ価格だったり、価格差がほとんどない場合も注意が必要です。

精油を選ぶ際には、複数のメーカーの価格を比較し、信頼できるメーカーから購入することをおすすめします。

極端に安すぎる精油は品質に懸念が生じるため、適正な価格帯を把握し、他の製品と比べてなぜ安いのか、その背景にも目を向けることが大切です。

3. 希少性の高い精油の抽出方法

他のメーカーでは扱っていない非常に珍しい精油を扱っている場合、合成香料である可能性も考えられます。

例えば、桜や勿忘草など、植物自体の香りが薄かったり、香りが変化しやすい植物から精油を抽出することは非常に困難なため、これらの精油は現時点は存在していません。

過去には、ソメイヨシノの花びらから『低温真空抽出法』を使って芳香成分を含んだ水分を抽出した例もありますが、桜の花びらから「水蒸気蒸留法」や「有機溶剤抽出法」で香り成分を抽出することはほぼ不可能とされています。

もし今後、桜などの希少な精油を見かけることがありましたら、「抽出方法」を確認することをおすすめします。

日本で出回っている精油の9割は偽物?

残念ながら、日本に流通している精油の中には、高価な精油に他の安価な精油や合成香料を混ぜたり、溶剤などを加えてカサ増ししてボトルに詰め替え、「100%ピュアな精油」と偽って販売しているものが9割以上あると言われています。

このように、100%ピュアでないものを本物の精油と偽る行為を「偽和(ぎわ)」と呼びます。

特に偽和が多い精油の一つがラベンダー精油です。ラベンダー精油は非常に人気が高いため、生産量の何倍ものラベンダー精油が市場に流通していると言われています。

【ラベンダー精油を大量生産するために行なわれていること】

  • エタノールや溶剤で薄める
  • 合成香料を混ぜる
  • ラベンダーの交雑種であるラバンジンなどの安価な精油を混ぜる
  • ラバンジン精油に、ラベンダー特有の香りを作る酢酸リナリルやリナロールを添加する

上記のような方法で、人工的に甘い香りのラベンダー精油を大量に生産し、高品質なラベンダー精油のように見せかけて販売されることがよくあります。

​アロマテラピーの本場であるイギリスでも、1900年代初頭に粗悪な精油が多く出回り、高品質な精油を手に入れることが困難な時代がありましたが、1993年に「Aromatherapy Trade Council(ATC)」が設立され、市場を監視し、ランダムに精油の成分分析検査を行うなどして、消費者が安心して高品質な精油を入手できるように努力が重ねられています。

​日本では、精油の表示基準を定める認定制度は存在しますが、成分検査や取り締まりを行う規則や専門機関がないため、成分に偽りのある精油の流通を止められないのが現状です。

​成分に偽りのある精油は安価で入手しやすく、本物に近い香りがしますが、精油本来の効果を期待できないばかりか、心身に悪影響を与える可能性もあるため、慎重に選ぶことが大切です。

本物の精油を見分けるための重要なポイント

アロマテラピー初心者が本物の精油を見分けるのは非常に難しいです。巧妙に加工された精油は、アロマテラピーのプロでも見分けがつかないことがあります。

初心者の方が精油を選ぶ際に参考にしてほしいポイントは、信頼できるメーカーや販売店から購入することです。

専門知識を持つ販売者が在籍し、偽和についての知識があり、製造過程や品質管理がしっかりと監視されているメーカーや販売店を選ぶことが大切です。

信頼できるメーカーの精油を扱う販売店は、偽和について警鐘を鳴らすメッセージを掲示している場合が多く、消費者の安全を第一に考えています。

成分分析表が添付されていても、それが希釈前のデータである可能性もあるため、必ずしも信頼できる材料にはなりません。

精油選びで迷ったときは、アロマテラピーのプロが使用するブランドがおすすめです。

「Aromatherapy Trade Council(ATC)」に加盟するメーカーの製品も参考にしてみてください。日本でも手に入りやすいメーカーがいくつかあります。

ATC Membership List : Aromatherapy Trade Council

初心者の方は、できるだけ多くの高品質な精油の香りをたくさん嗅ぎ、嗅覚を育てることが大切です。

経験を積むことで、かすかに感じるケミカル臭にも気付けるようになり、自然と本物の精油を見分ける力が養われます。

まとめ

精油の選び方のポイントをまとめました。

1. 精油とアロマオイルの違い

  • 精油:植物から抽出された100%天然の芳香成分
  • アロマオイル:合成香料や溶剤が含まれることが多く、肌への使用はNG

2. 本物の精油を見分ける3つのポイント

ボトルとラベルの表示

  • 遮光性のガラス瓶に入っている
  • 「Essential Oil」や学名、抽出方法などが明記されている

価格

  • 極端に安すぎる精油は注意
  • 植物の種類や産地によって価格差があるのが一般的

希少性の高い精油の抽出方法

  • 桜や勿忘草など、通常精油が取れない植物の精油には要注意

3. 日本で流通する精油の問題点

  • 日本では「偽和」が多く、流通精油の9割が偽物と言われている
  • 成分分析表があっても、希釈前のデータの可能性もある

4. 本物の精油を見分けるためには

  • 高品質な精油の香りをたくさん嗅ぎ、嗅覚を鍛える
  • アロマテラピーの専門知識を持つ、信頼できるメーカーや販売店を選ぶ

日本でアロマテラピーが普及してから20年以上が経過しましたが、現在でも本物の精油を手に入れることが難しい状況が続いています。上質な精油を扱うメーカーが日本から撤退したり、事業を縮小している現状に、危機感を抱いています。

『買い物は投票』と言いますが、私たち一人一人が正しい知識を持ち、未来の幸せにつながる選択をすることが、上質な精油を守るための第一歩となります。

ぜひ、次に精油を選ぶときは、このポイントをチェックしてみてください!